闇夜を漕ぐ。


photo by siro ose

琵琶湖の北端にある、カヤックプロショップ、「グランストリーム」。僕がいつもお世話になっているショップであり、旅に特化した様々なプログラムで、我々ユーザーのスキルアップを手助けしてくれる。

そんな旅プログラムの中でも、特に異彩を放つワークショップが、今回僕が参加した、サンセット&サンライズパドリングだ。

琵琶湖の西岸で、山間に沈むサンセットを見ながらビバークし、深夜、月も落ちた真っ暗な闇夜の琵琶湖に漕ぎ出して、琵琶湖を西から東へ横断し、途中、湖上でサンライズを迎えるというとんでもない企画だ。

まったく・・・すげぇ~事考えるもんだ。

そして、そんな酔狂に喜々として乗っかる仲間達と共に、初めて参加したこのワークショップ。思っていた以上にクレイジーで、そして、アメイジングな体験となった。



その旅は、静かに始まった。

残暑も厳しい8月の終わり、太陽が西に傾いていく17時。海津大崎を漕ぎ出した。風もなく、凪いだ湖面を滑るように進む8艇のフェザークラフトカヤックは、やはり美しい。

この浮遊感と、静寂。人の営みを遠くに置き去り、非日常の世界へ逃避するには、カヤックで陸を離れるのが手っ取り早い。

時間とともに気温が落ちていき、水面からは、心地よい『涼』を感じられる。

幕営地まで5キロほど、ゆっくりと漕ぎ進み着岸。空に薄くたなびく雲を、西陽が染め上げる。

photo by siro ose

あまりの美しさに、声にならない声を上げる。時間の経過とともに、少しずつ変化し、繰り広げられる幻想的なサンセットイリュージョン。


湖岸に住むガイドの大瀬さんをして、「こんな素晴らしいサンセットはなかなか拝めない」と言わしめる程のすばらしい夕暮れのひとときを、仲間と共有出来たことが嬉しい。

夜食を済ませ、漕ぎ出しの時間が刻々と迫る中、気の合う仲間とつい時を忘れて話し込み、夜更かししてしまう。 後に、パドリング中に抗えな程の睡魔に襲われ、激しく後悔したんだけど、楽しいから仕方がない。



2時間程度の仮眠を取り、暗闇の中の撤収作業。まるで覚めない眠気と格闘しながらも、深夜2時、湖岸に立つ。目の前には・・・何もみえねぇ〜!!

何となく、薄ぼんやりと、沖合8キロに浮かぶ竹生島が見える。識別と位置確認の為のサイリウムを、船首と船尾に仕込みカヤックに乗り込むと、恐る恐るヘッドライトを消す。すると、不思議な事に、何も見えない暗闇だった湖面には、対岸の町の明かりがゆらめき、琵琶湖を囲む山々のシルエットが漆黒の闇の中に浮かび上がっている。

空には、覆い尽くさんばかりの星空が広がり、たまらない情景を作り出している。

いやはや、こりゃたまんないわ!!

暗闇ではライトを照らすものだけど、明るすぎる光はその周囲を闇に落とす。なんだか哲学的な想いにふけりながら、そっと湖面へと漕ぎ出した。



漕ぎ出してから約2時間。猛烈に襲う睡魔と戦いながら、漆黒の中のパドリングは続く。途中、日本海から抜けてくる北風が吹き始め、凪いでいた湖面から均衡を奪うと、適度な刺激を受けた僕は少しの間、睡魔が遠のく。

しかし、毛羽立つ湖面にもやがて慣れてしまい、気を抜くと、意識が飛びそうになる朦朧とした時間が続く。寝ているのか、起きているのかもあやふやになり、パドリングの手が止まる。

竹生島を過ぎてしばらく経った頃だろうか。東の山影が、ほんの少し、濃くなったような気がした。先程まで見えていなかった稜線が、微妙なコントラストの中に浮き上がってきている。

昨日、あのドラマティックなサンセットを演出した太陽が、僕達が仮眠をとり、闇夜を漕いでいる間に、地球の真裏を通って今、東の空に昇ろうとしている。
そんな当たり前の事が、なんだか特別に感じられるのは、あまりにも非現実的な時間を過ごしているせいなんだろうか。









刻々と、空から星が消えていき、東の山影の向こうから、薄い雲の膜を照らし始めるに従って、暗闇の世界が、徐々に瑞々しい色彩を取り戻していく。

そして、突然、強烈な光をまき散らせながら、伊吹山の向こうから、朝日が昇った。

その美しさに言葉を失い、そして、闇を無事越えた安堵も手伝い、得も言われぬ幸福感がジワジワと湧き上がってきた。

いままで色んな所を旅して、様々な風景と出会い、たくさんの感動の瞬間があったけど、また新たなとびきりの感動の瞬間に出会う事ができた。

これだから、旅はやめられないんだよな〜っと、伊吹山に輝く『ダイヤモンド伊吹』を眺めながら、ひとりほくそ笑むのだった。






また、旅に出よう。

鳥肌が立つくらいの感動の瞬間と出会う旅に・・・♪



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