ハングオフ。
livedoorblog『ハングオフ。』2008/03/03より転載
「走っていなければ倒れてしまう、不安定でアンバランスな所に心を奪われるんだよね。」
確かにカーブを曲がる際、ハンドルをこじるのではなく、視線を出口に向けてオートバイを内側に倒し込んでいくと、自然にカーブと同じ弧を描いてオートバイはノーズの向きを変えていく。その瞬間におとずれる、オートバイが倒れ込んでいく力と、遠心力が絶妙にバランスした無重力感は、ライダーだけが感じる事の出来る魅力だろう。
だが、稀にこのバランスが崩れる時もある。
ある秋のこと。野沢温泉スキー場から志賀高原に抜ける極上の舗装林道である奥志賀公園栄線を、草津を目指して走っていたときのことだ。
軽快に連続するタイトなコーナーをリズミカルにパスして調子に乗っていた僕は、あるカーブでアクセルワークを誤った。内側に倒れ込む力が、外にふくらもうとする遠心力に、ほんの少し勝ってしまったのだ。
グラっと右側に倒れ込む刹那、脇の下からは汗が噴き出し、背中の筋肉が緊張でギュッと固まる。そして、ヘルメットの下では、声にならない叫び声がこだました。
「ふわぁっ!ひゃべぇぇ~~~~!!!」
反射的に無意識にアクセルを開いた瞬間、今まさに倒れ込もうとしていたオートバイに駆動力が伝わり、運良く事なきを得た。
しかしその後は、遅れて訪れた転倒への恐怖心に全身が硬直し、前を走る友人になんとかついてゆくのが精一杯の状態であった。
しばらく走り少し落ち着いた頃、前を走る友人の左ウインカーが灯り、路肩にオートバイを止めて休む。
若干震えの残る指先で不器用にライターを擦り、タバコに火をつけると胸いっぱいに煙を吸い込んで、そのままその場に座り込む。ぼんやりと路面を見つめる視線のその先に、僕の密かな自慢のブーツであるダナーライトを捉えた僕は、爪先部分にアスファルトで削れたかすかな傷が付いていることに気付いた。
「さっきのタイトな右カーブ、ちょっと調子に乗って倒しすぎちゃってさ、買ったばっかのブーツに傷がついちゃったぜ!」
と、さも度胸がある男を装って、ダナーライトのつま先の擦り傷を指でなぞる。
決して未熟なライディング技術を認めることも、ビビってさっきまでクラッチ操作もおぼつかないほど手が震えていたなんてことはおくびにも出さない。
それがダンディなオートバイ乗りの誇りである・・・(汗)
☆☆☆
今ならインカム越しに同行者全員に、恐怖に怯えた情けない泣きごとをリアルタイムに聞かれちゃうので誤魔化しようもないわけで・・・あの頃は良かった・・・のか?(*´ェ`*)
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