冬、来たる。



 給油口を開けてノズルを差し込んでハンドルを握ると、『ブーン』という機械音とともにガソリンがホースを通りタンクに流れ始める。

車越しに眺める空には、北陸の冬特有の重く暗い雲が頭上を覆っている。

「そろそろ、降るか…。」

木枯らしが首筋を撫で、たまらずにジャケットの襟を絞る。

夏生まれだからなのか寒さに滅法弱い僕は、以前であれば、いよいよ訪れる暗く長い冬を目前にして、世界の終わりを迎えるが如く、深く心を沈ませていた。

そんな僕が、今はどうだ?

山に登る生活を続けているうちに、降雪の始まりが雪山登山シーズンの始まりとなり、気持ちは沈むどころか、どちらかと言うと高揚感すら感じ始めている。

山登り、恐るべし…だ。


12年前に、雑誌で読んだ『スノーハイク』って言葉だけに憧れて、夏山すら登らないのにアウトドアショップで60%割引で叩き売りされていたサレワというブランドの雪山用の靴を手に入れた。

中綿断熱材入りでやたらと重たいその登山靴は、ほとんど新品のまま下駄箱でその半生を過ごし、改めて3年前に始めた登山でやっと出番を迎えた時には、とうに靴の寿命を過ぎており、いつ加水分解でソールが剥がれてもおかしくない時限爆弾を抱えながら、僕は恐る恐る雪山へと向かっていた。

そんな中、先日仕事先で、何気なく入ったアウトドアショップに立ち寄った折、セール期間ってこともあって、前から気になっていたスカルパの冬靴を安く手に入れることができた。

嬉々として自宅に帰り、アイゼンの調整を済ませると、もうすぐそこまで来ている雪山シーズンに想いを馳せる。

青を通り越して、碧い空。純白に覆われた一面の雪原に反射する冬の日差し。空気中の水分は全て凍り、霧氷となって舞う稜線を、ゆっくりと頂きに向けて登りつめてゆく・・・。


『…ズンッ!』

おもむろに、給油が止まる音に現実へと引き戻された。どうやら給油を待つ間、心は一足先に雪山へとむかっていたようだ。

妄想の中の美しい風景を思い返しながら、もう一握りだけ給油を続けようとハンドルを握り込み、止めるタイミングを見誤って、盛大にガソリンが・・・溢れた。


って、何やってんだ、俺 💦


さてと、仕事しよ(笑)




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